先行きの見えない状況の事をよく一寸先は闇・なんて例えるけれども
我が華やかなる二十年の人生において、これほどまでの真っ暗闇に
お目にかかったことはない気がするな。お目にかかるっても、まあ、
暗過ぎて何も見えないんだが。手元でうっすらと光る携帯のバックライトを
頼りに一歩ずつ慎重に、しかししっかりと前に進もうとすると、やにわに
俺の袖を引っ張って止める奴がいる。おい、しっかり歩けって。
「いやや!もうええやん、帰る!」
じゃあ一人で帰ればいい。命綱たる光源、すなわち携帯を持っているのは
俺だけだからな。帰れるもんなら一人で闇の中に突っ込めばいい。
「そんなん無理やって!もう行きたくない怖い怖い!」
あーもう喚くな叫ぶな分かったから。そんなに帰りたいのかよ。
じゃあ、そうだな、あと百歩行って何もなかったら帰ろう。どうだ?
「10歩」
値切るな。じゃあ50歩だ。
「25歩」
駄目。50歩。これ以上はまからんねえ…って何の交渉だよコレ?
あーもう行くぞ、一歩、二歩!
「三歩!四歩!」
五歩、六歩…っとちょい待ち。何かいる。見えるか?
「え!?ちょ、何?何が?」
そこだ…ほら、そう…お前の後ろに!
「いやああああああああああああああああああ!」
それは平和で静かな森の中で起きた、平和で静かな出来事。
悲鳴も、絶叫も、全て闇の中へ、吸い込まれてゆくから。
NEXT