2007年12月03日

西方蹴鞠譚 〜 Black and Blue Fever.

世界には"聖地"と呼ばれる場所がある。
一般に宗教的に重要な場所を指すが、
特定の人々の尊敬を集める場所を
そのように呼ぶことも少なくない。

そうした聖地と呼ばれる場所には、
前者のケースのみならず、ある一種の
独特の雰囲気があると知ったのは、
その巨大で荘厳な、建築物という
枠を遥かに越えた"それ"の威容を目にした時だった。

畝る支柱と巨大な斜面に四方を囲まれ、
その中心には緑色のピッチと二つのゴール。

ジュゼッペ・メアッツァ、通称「サン・シーロ」。
その迫力に圧倒され、俺はしばし立ち尽くした。

 †


水の都・ヴェネツィアを(あらゆる意味で)満喫した俺は、列車に乗り一路・西を目指す。長靴型をしたイタリア半島の、丁度ふくらはぎの一番上あたりに位置しているヴェネツィアから、今度は脛を目指すという訳だ。列車の外の風景は、ローマやフィレンツェを旅していた時とは違って小さな街が連続していて、住宅街の中を通ることが多かった。

そうしてしばらくの間列車に揺られて辿り着いたのは、北部イタリアの大都市、ミラノ。デザイン・ファッションの世界的な発信地としても有名なこの街は、駅を出た俺を他のイタリアの街とは全く違う、どちらかというと日本の東京や大阪に近い近代的なビル群と共に出迎えてくれた。

正直な話、ミラノにはあまり長居するつもりはなく、昼からの半日ほど観光をした後に夜行列車か夜行バスで次の目的地へと向かおうと思っていた。そこでまず駅の鉄道案内所や観光案内所で、夜行列車・夜行バスの予約をしようと思ったのだが…

「ないよ。夜行列車は出ていないんだ」
「夜行バスねえ…聞いたことないわ」

案内所のおじさんとおばさんはそう言う。ないことはないだろうと聞き返しても、答えはノー。鉄道はともかく、ならば高速バスの事務所へ行って…「今日は土曜だから休みよ」ああ、そうかい。

イタリアは日本とは違い、土日はほとんどの店が営業していない。動いているのは電車とバスくらいのものである―そして、それはイタリアだけではないと知るのはもう少し先の話だ。八方塞がり。だが駅で腐っていても時間の無駄なので、ひとまず街の中心を目指すことに。

観光案内所で貰った地図を頼りに、ビル群を抜け、街の中心ドゥオーモを目指す。イタリアは流石カトリックの本拠地なだけあって、どの都市にも教会や聖堂が街のあちこちにある。どの都市もその街で一番大きな教会や聖堂があって、それを中心に街が広がっているというのが一般的な街の形のようだ。そういえば高校時代の地理の講義でそんな中世型の街の構造というのを習ったような気がするな…受験の時に得た知識はもはや忘却の彼方である事実に少しうんざりする。

そうやって鞄一つを背負っててくてく歩きながら、たまに観光客らしき白人に道を尋ねられ(ごめんなさい、ここの人じゃないんです俺旅人なんです)、聖堂を目指していると急に観光客の多い通りへと出た。何事かとあたりを見回すと…アルマーニ、グッチ、ドルチェ&ガッバーナ...と高級ブランドのショップが集中する通りだった。流石に歩いている人も心持ち高所得者そうな方々が多い。妙にアジア人が嬉々としているのは見なかったことにしたいね。ちらちらと中を覗きながら歩いていると、俺が歩いていた歩道の脇に一台の車が滑り込んできた。

轟音と称すべき地に響くエンジン音。
流線美とはかくあらんという美しいフォルム。
そして燃え上がる真っ赤な車体。
そのフロント部には跳馬の紋章…

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおフェラーリきたああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!

なに、フェラーリくらい日本でも探せば見つかるとは言え本場イタリアで見る真っ赤なフェラーリの感動と言ったらないぜ。思わず足を止めてその腹の底に響く爆音を感じて恍惚としていると、扉が開く。おいおいしかもガルウィングかよ。もしかしてこれエンツォか…?とまじまじと見つめていると、中からスーパーモデル級にスタイルのいい白人の美女が降りて来られた。フェラーリ×モデル姉ちゃんという都市伝説的なレベルの光景に口を開けていると、今度は反対側のドアから男性が降りてきた。紺色のスーツにピンクのシャツ、きっちりと整えられた髪の毛に整った顔…

負けた。

外れた顎を直しながら、薄汚い旅人風情がいる場所ではないと再確認して俺はすごすごと通りを抜けたのだった。


 †

CIMG1047.JPG

そうして街の中心に来る頃には陽も傾き始める頃合いで、俺はその日のうちの出発を半ば諦めていた。ミラノで一番行きたかった場所は中心街からも宿からも離れているらしく、明日行くしかないかと諦念の嘆息。やれやれと思いながらガイド本などでは頻繁に紹介されているらしいショッピング街(俺の率直な感想では新天町を10倍に、神戸センター街を5倍にデカくしただけのようなものだ)を抜け、ドゥオーモに辿り着くと、何やら騒がしい。と思ったら、開けた広場である筈のそこには聖堂そのものと競り合うくらい大きなライブセットが組まれていたのだった。何事かと近づいてみると、何やらMTV the Dayのイベントが行われているらしかった。なんとこのタイミングで…とも思ったが、せっかくだから観て行くことにした。タダだったしね。

CIMG1045.JPG

いくつかのバンドや歌手が歌っていたが、全てイタリア語で俺にはさっぱり分からない…が、いつの間にか俺のはるか後方まで出来ていた人だかりは全員飛び跳ねて一緒に歌っているところを観るとどうやら相当に有名なグループばかりらしい。白髪でよぼよぼのおばあちゃんですら一緒に熱唱していたというから、これはあの歌手の知名度が凄いのかイタリアの老人が凄いのか。俺も分からないなりに一緒にぴょんぴょん飛んで歌ってきた。途中で出てきたバンドが、ヒップホップとファンクを混ぜたようなテイストでしかも黒人のツインドラムというファンキーの極みで凄くカッコ良かった。帰ってから調べてみるかと思い、最後の歌手(ロビー・ウィリアムズみたいな奴だった)の演奏が終わってから地下鉄で宿へと向かった。

CIMG1052.JPG

宿へ辿り着くと、四人くらいの日本人に声をかけられた。あまり日本人とは会話しないつもりだったのだが、適当に挨拶と自己紹介をしていると、なんと俺と同郷で、しかも某芋大学へ通っているという同い年の奴がいた。彼の名はエトオ。バルセロナのエースフォワードと同じ名前である(注:日本人です)。二人でテンション上げてしばしやんややんやと騒いでいると、明日の予定はと訊かれた。明日は適当にぶらついてから次の目的地へ向かうけど…と言うと、「サッカー観に行かねえ?」

行きますとも。

それまで俺は全然そこまで頭が回っていなかったのだが(サッカーフリークとして恥ずべきことではある)、セリエAは毎週末に試合が行われており、ACミランとインテルが本拠地とするここミラノでは、毎週どちらかが試合をしているのだ。その日は土曜日、そしてその翌日は日曜日。そこでエトオともう一人、一つ年上で京都で大学に通っている人…Nさんと三人で観に行く計画を立てる。そこにいた残りの二人と五人でそれぞれの話や情報交換をして、次の日の昼にスタジアム最寄りの駅で待ち合わせをすることに。いやしかし、世界は狭いな。


 †


その翌日、午前中はそれぞれ別行動で動くことになったので、特に用事のない俺はのんびりと歩いてスタジアムを目指すことに。さすがに日曜なので人気がなく、街を歩いていても特に面白いものもなかったのだが、巨大な敷地を持つ何かが地図に載っていたので行ってみた。するとそこは墓地で、十字架が順序よく建てられ、どこか独特の雰囲気を醸し出している。花を供えてある墓もあり、この辺は日本と同じなんだなと感心したりする。墓地の周りは閑静な住宅街で、恐らくお参りに来た人へと花を売っているであろう露天の花屋もあった。のんびりと歩いて、再びスタジアムを目指す。

CIMG1057.JPG

駅で二人と合流して、いざスタジアムへ…といった時に、急にNさんが声をあげる。どうしたのかと二人振り返ると、デジカメを盗まれたらしい。腰につけていたポーチから抜かれていたらしく、どこか別のところに直したのでは?という二人にも鞄のどこを探しても見つからない。何か心当たりは、というと、先程地下鉄の中で突然人に腕を掴まれたらしい。ああ、きっとその時だろうな…

どうしようもないので、近くにいた警察の人にどうすればいいか尋ねる。中央署へ行って遺失物に関する書類を書かなければいけないそうだ。うなだれるNさんを二人が元気づけ、しばらくして開き直ったNさん(すげえよな)と気を取り直してスタジアムへ。



聖地「サン・シーロ」。
世界中のサッカーファンの憧れの地。


開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。スタジアムの外でユニフォームとチケットを手に入れ(ちなみに俺はSUAZOのユニフォームを買った。通だろ)、颯爽とスタジアムへ歩き出すと、スタジアムがどこにあるか分からない。しかし人の流れに沿って歩いて行くと、どうも前方の薄暗い影を目指し…あれ、もしかして…そう思って上を見上げると、首を垂直に上げなければ頂上が見えないくらい巨大な建物があった。あまりに巨大過ぎてそれがスタジアムだとは気付けなかったくらいだ。福岡ドームや長居スタジアムが玩具に見えるレベルだ。変な笑いと共に中へ入って行く。

CIMG1060.JPG

その日のスタジアムはインテルvsカターニャであり、どちらかというとミランの方が好きな選手が多かった俺は少しだけがっかりしたが、アルヘンファンたる俺は別にネロアズーリでも構わないさ。カターニャと言えば森本が所属するチームで、出てくれないかなーなんて三人で話していたのだが、

IIIIIIIIIIIIInteeeeeeeeeellllll!!IIIIIIIIIIIIInteeeeeeeeeellllll!!

凄まじ過ぎるサポーターを見た瞬間、前言撤回。森本が出て万が一インテル相手にゴールでも決めようものなら俺達は間違いなく殺される。そういう訳で試合を半分楽しみながら、半分命の危険を感じながらもインテルを応援しまくっていた。クレスポ出てたよ。もちろんカンビアッソもサネッティも出てた。でもマテラッツィが出なかったのは少し残念だ。この試合、実はアドリアーノが先発して、俺らだけでなくファンまでも「えぇー!?」みたいなコールをしていたのだが、ちょこちょこ良い動きをしていて、その度にファンから拍手されていた。でも全盛期にはほど遠いよな…と思っていたら、交代でズラことズラタン・イブラヒモビッチ投入。もちろんスタンドは大興奮。格の違いというのを見せつけられたね。

試合は2-0で勝利。カターニャはカウンターから僅かにチャンスを作るも、インテルの屈強なディフェンスの前には意味を為さず。

photo with Etoo
with Mr.N


そうして試合を存分に満喫した後、俺はその日のうちに次の目的地へ着くようにと二人に別れを告げ、駅へと向かう。夜行がないので列車で向かうしかないな…。渋々と安くない列車料金を払って、切符を買う。しかしここはヴェネツィアとは逆だな、と思った。そんなに期待はしていなかったけど、ライブとサッカーのおかげでいい思い出が出来たよ。横に十数列もプラットホームのある巨大な駅、パタパタと回る時刻表にイタリアのもう一つの顔とでも言うべき姿を重ね、俺は満足顔で列車へと乗り込んだ。


posted by iNut at 18:12| バンクーバー ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 西方project | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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