2008年01月12日

西方家無子 〜 Unsettled Plan Kills You.


城塞から見下ろしたその街は、果てしなく巨大。
東西南北に伸びる何本もの大きな道路が、
街を均等に区画化しているように見えた。

西側には地中海、残りの三方は山に囲まれる。
そんな自然と共にありながら、それらの中に
埋もれるどころかむしろ強烈なまでにその街の
存在感は圧倒的だった。

かつてカタルーニャの首都として栄え、
現在はスペイン第二の都市であるこの街は
数多くの芸術家を生んだことでも有名だ。

巨大な街を支える人々の熱気と、
強大であるが故の混沌。
情熱の国との二つ名に違わぬエネルギーが、
そこかしこから感じられる。

西方project第七弾バルセロナ編、スタートです。



宿を出て、ジュネーブ中央駅へ。事前に調べておいた通り、
モンペリエ行きの切符を買う。日本で立てていた計画では
ジュネーブを出たらパリへ向かう北のコースを考えていたが
フィレンツェで会った旧友が「南フランスには絶対行くべきよ」
と言うので、進路を南へ。リヨンを経由してモンペリエへ。

高速鉄道として有名なTGVにはそう感激はしなかったが、
南フランスの風景は奇跡のように素晴らしいものだった。
揺れる麦の穂、赤煉瓦作りの家々…絵画でしか見たことの
ないような美しい景色がずっと遠くまで広がっていた。

フランスは広い。いくらTGVとは言え、フランスの西の中腹に
あたるジュネーブから南の果てまで行くのには結構な時間が
かかる。しばらく同じ風景が続き、少し飽きてきた頃に、
ふと座席のシートポケットを見るとスポーツ新聞が刺さっていた。

日本で言うそれとは違い、徹底してフットボールに傾倒する
ヨーロッパの国のスポーツ紙には嫌らしさがまるでない。
勿論それは単に俺がフットボールフリークだからかもしれないが…
フランス語はよく分からないけれど、不思議と読めるものだ。
何せチーム名や選手名、スタジアムやスコアはフランス語だろうと
関係ないから、旅行に出ている間の各国リーグの展開を眺めていた。

紙面にある程度目を通して(ある程度は読めた!)、最後のページに
目をやると、そこには次の試合日程のリストが書いてあった。
そして俺はそこで衝撃の記事を見つける。

9/19 21:00- UEFA CL Barcelona - Lyon (Camp-Nou)

時計を見る。日付は9/19,時刻は午後三時。


 ×


選択肢は二つ。一つ、南フランスで降りて、リヨンと
バルセロナの丁度中間の地点で降りて、適当なBarで観戦する。
二つ。このまま突っ切って国境を越えて、バルセロナへ
行ってスタジアムで観戦する。
前者は無難な選択だ。泊まる宿の目安もあるし、時間にも
余裕がある。試合自体は見れるだろう。ただ、悔しい。
後者は、危険な賭けだ。間に合うかどうかは怪しいし、
例え間に合ったとしてもこんなビッグ・ゲームのチケットが
余っているかどうかは疑わしい。それに何も下調べを
していないからスタジアムへの行き方すら分からない。
どうする。どうする?どうする!?


ふと、元バイト先のシェフの声が聞こえたような気がした。
「ハッ、お前のバルサへの愛なんてそんなもんか」


ああ行ってやるよ!ここで行かなきゃ男じゃねえ!


しかし手元には何ら情報はない。列車の時刻表はないし、
バルセロナの情報も何もない。頭の中に入っている
南フランス近郊の地図を呼び起こし、最短と思われる
ルートを確認。モンペリエの綺麗な風景に少し心を
痛めながらバルセロナへと急ぐ。列車を乗り継ぎ、
国境へ辿り着き、ホームを全速力で駆け抜け、
バルセロナ行きの列車に飛び乗った。

しかし、俺の焦りと急ぐ気持ちとは裏腹に列車は遅く、
俺は時計を見ながら苛々としていた。地中海の景色も
今の俺には何の感想ももたらすことはなく、ただ俺は
神様に祈っていた。頼むから間に合わせてくれ…!

Espanol - Perpignon2Portbou 2.jpg
フランスとスペインの国境・Port bou

結論から言うと、間に合わなかった。列車がバルセロナへ
辿り着く頃にはとっくに試合は終わっている頃合いだった。
フランスで移動している時のスピードを考えれば十分に
間に合う計算だったが、スペインの列車はそうせっかちでは
なかったらしい。こんな対比でTGVの凄さを思い知らされるとは
なんとも皮肉な話だったが、そんなジョークを楽しむ余裕は
その時の俺にはなかった。

日頃の俺のバルセロナへの愛が足りなかったからかどうかは
未だに良く解らないが、その時の俺の凹みっぷりは激しかった。
いつもは割とポジティブ思考に支配されっぱなしの俺の脳内も
この時ばかりはとてつもない自己嫌悪で死にたくなった。
南フランスを捨ててまで走って来たというのに試合には間に合わず、

「…ここも、か」

"Sorry Fully Booked"の看板を恨めしく睨みつけている
東洋人の少年を現地の人間がどう見たかは分からないが、
その時の彼に話しかければ、西洋の人々が一般に持っている
日本人へのイメージを多少改められることになったかもしれない。
そのぐらい俺は憤慨していた。行く先々の宿で一見さんお断り、
とでも言うかのように追い出されてもう何件目か分からない。
少なくとも、バルセロナの中心街でホステルの空きはないようで、
そんな自分の運の悪さを嘆き、人生でも五指に入る最悪の判断を
下した数時間前の自分に怨嗟の声を吐き出す俺は半ばヤケになり
野宿の決断を下した。

なに、神戸で終電を逃した時のようにその辺でブラブラしていれば
いいさ、なんて思っていた俺は明らかに怒りで思考が麻痺しており
自分が今何処にいるのかなんて頭になかったのかもしれない。
周囲で楽しそうに騒ぐ人々を横目にずんずんと当てもなく歩き回り、
夜気にあてられて頭も冷えた頃、俺は気付いた。気付けて良かった。
気付かなければ、割と笑えない確率で俺は割と笑えないくらいの
ヤバい目に遭っていたかもしれない。

電灯の少ない暗い小道と人気のない裏通り、通りの交差する小さな
広場の街灯の下にたむろするのは、浅黒い肌をした中東人。
ふと周りの建物に目を凝らすと、あちこちからぶら下がっている
看板は全てアラビア語だった。一気に俺のCPUが怒り心頭モードから
緊急回避モードへ。ヤバい。これは間違いなくヤバい。
この国は呑気に夜のお散歩をしていい程度の治安の良さを
維持するには難しいくらいのアレな人々が集まっているから―!

こんな時には意外と冷静になれる自分で良かったと心から思う。
今まで歩いて来た道順を辿り直し、大通りに出る最短の道を選び
迅速にこの区画を抜ける。適当にこの辺で夜を過ごそうなんて
目出度い思考をしていた先刻までの俺はユルい自殺志願者か。
今日何度目かの異時間同位体への呪詛を紡ぎながら俺は両脚の
ピッチを加速させる。色々とアレなアレが視界に入って来たりも
するが全力で無視。関わったら死ぬ。

大通りに出ても、やはり安心出来ない。一晩歩き回るには
長旅で疲労が溜まっているし、少しは落ち着いて休める場所を
探した方がいい。街の中心街の大通りを歩きながら、駅で見た
バルセロナの全景を思い出す。街の前情報なんて全く無いので、
とりあえず人気の多そうな道を辿り、西の海辺を目指した。

標識や街の地図を頼りに海辺へ着く。そこはショッピングモールと
水族館のある、福岡で言えばマリノアやベイサイド、神戸で言えば
モザイクのような場所だった。ここなら割と安全だろう、そう思って
風の当たらない場所を探して、鞄を枕にして守るようにしながら
横になる。冷たい。資材置き場を発見した。段ボールあったけー!



最早野宿ではない。記念すべきホームレスデビューの瞬間である。



ぐっすり眠ると色々アレなので、仮眠程度に休んで夜が明けるのを
待つことにした。俺は一体何をやっているんだろうなあとボヤきながら。


posted by iNut at 22:40| バンクーバー ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 西方project | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こうも考えられるじゃないか、スペインで野宿したのに何も盗られなかった=ラッキーな夜だったな。
Posted by アキラ at 2008年01月13日 08:55
>羊達の沈黙
バルセロナは大変なものを盗んでいきました…
それはまた次回。
Posted by りー at 2008年01月13日 11:06
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