2008年04月08日

西方異国録 〜 Tradition and Innovation.

九月ももう終わろうかというこの時期になるとロンドンの夜は寒い。
吐く息も白く、シャツの上にパーカーという薄着の俺は首をすくめ
身体を縮めていたが、隣のドイツ人は気にした風もなく言う。

「確かにそういった問題もある。でも、もうお互いの国同士で
 人も物も行き来して、ミックスされてしまっているから」

煙草の煙をふっと吹き出すと、彼は続けてこう言った。

「俺達若い世代にはもう、意味の無い話なのさ」



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2008年02月18日

西方倫敦橋 〜 Rainy City with No Cloud.

「俺がロンドンに行く、と言ったら皆こう言うんだよ。
 あそこは雨が多くて年中霧の出てる憂鬱な街だって」

いくつものベッドが折り重なるように積み上げられ、子供が
家具を並べて作った秘密基地のような様相を呈すdormitoryの、
一番隅の窓際のベッドに腰掛けた俺に向かって男性は言う。

「だが、そうさ、彼らは一体何を心配しているんだ?」

愉快そうに笑う彼。俺も頬を緩め、肩越しに窓の外を眺めた。
狭い路地の向かい、建設中のビルの窓ガラスが、雲一つない
ヨーロッパの空を反射して青く輝いていた。俺は顔を戻して
彼に言った。

"Yeah, it's so good day."


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2008年02月15日

西方鉄塔望 〜 Magnificent and Melancholic Tower.

広場を抜けて大通りを歩いて街の中心までやって来てみても
前日とはうってかわって人気のない寂しげな風景が続いている。
東の果ての島国では考えられないほど、静かな静かな日曜日。

大通りから路地に入ると細い道がいくつも交差し日陰が増える。
まばらにしか見えない人の姿と静かに差し込む朝日の紗幕が
雲の多い空の下で連綿と並んでいて、ああここもパリなんだ、
なんとなくそう思った。


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2008年02月01日

西方巴里訪 〜 The Spirit of St. Louis.

西洋の長い歴史の中で、その街は歴史的に非常に重要な場所だ。
ある時は豪華絢爛な文化の中心、ある時は思想の転換期となる
革命の舞台となり、今もなお人々の憧れを集める華の街として
ヨーロッパを代表する都市。

巨大な門へと通じる大きな道路、高く聳える鉄の尖塔、
街のシンボルとして広く知れ渡ったそれらの姿は、
しかし華やかな街の顔の裏に秘められた様々な思いを
凝縮して、灰色の空へ映り込む影に映し出していた。


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2008年01月26日

西方砂色館 〜 Old Clay Sanctuary.

濃い青色と臙脂色。今や世界でこの色の組み合わせが示すものを
知らない人間はいないと言っていいほど知られた二色のライン。

古くはローマ帝国の植民地として、その後は頑固に自治権を
守り続けた古風でありながら強大な地域があった。

カタルーニャ、現スペイン国土の東側地中海沿岸に広がるこの地域では、
今もなお人々は我々はスペイン人ではなくカタルーニャ人だと主張する。
その背景には、スペイン内戦の際にカスティーリャによる弾圧を受け、
自分達の言語であるカタルーニャ語までも制限された深い因縁がある。
40年もの長きに渡る言語の支配。だがその当時、限定的に彼らの言葉、
カタルーニャ語を話しても良いとされた場所があった。
そしてその建物は、今でもカタルーニャ人にとって特別な意味を持つ。

カンプ・ノウ―
FCバルセロナの本拠地であるこのフットボールスタジアムには、
単なる競技場では、絶対に持ち得ない重みがある。



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2008年01月19日

西方百年尖塔 〜 Unbuilded Temple See Everything.


勝てるカードを持ちながら、無謀な策で不意にする。
そんな輩はいつだって、勝利の女神に嫌われる―。

朝靄の霞む海辺の朝、海鳥の鳴き声で俺は起き上がる。
少し寒い。ちゃんとした睡眠をとらず妙な姿勢でいたためか
体が凝り固まっている。しかし、昨晩からの悪夢の連続で
参っている俺は朝の体操も億劫で、しばらくそのまま
ぼんやりと海を眺めていた。

心身共に最悪のコンディション。昨晩の事も多少吹っ切れたが
やはり愚かしい我が身を呪いたい。ていうか死ね。今すぐ死ね。
いくら行き当たりばったりの旅と言っても無謀にも限度がある、
ケチらず時刻表を買えばこんなことにはならなかった筈だろう。
眼前に広がる薄い灰色の空と、紺色の暗い海の代わりに、
南フランスの長閑な景色を想像しかけて、やめた。

溜息をつく。
俺が憧れたバルセロナの第一印象は、最悪だった。


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2008年01月12日

西方家無子 〜 Unsettled Plan Kills You.


城塞から見下ろしたその街は、果てしなく巨大。
東西南北に伸びる何本もの大きな道路が、
街を均等に区画化しているように見えた。

西側には地中海、残りの三方は山に囲まれる。
そんな自然と共にありながら、それらの中に
埋もれるどころかむしろ強烈なまでにその街の
存在感は圧倒的だった。

かつてカタルーニャの首都として栄え、
現在はスペイン第二の都市であるこの街は
数多くの芸術家を生んだことでも有名だ。

巨大な街を支える人々の熱気と、
強大であるが故の混沌。
情熱の国との二つ名に違わぬエネルギーが、
そこかしこから感じられる。

西方project第七弾バルセロナ編、スタートです。


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2007年12月23日

西方湖水方 〜 A Lakeside Moment.

海とも違える巨大な湖、
その西の果ての湖畔に、
国際都市と呼び声高い
一つの街があった。

同じ国の他の街と同様に、山と湖に囲まれ
人の文化と自然が共存するその街には、
一つだけ他の街とは違うものがある。

街のシンボル、"Jet d'eau"。
それは天へと衝き昇る巨大な噴水。

上空の風に流され、弧を描いて
湖へと落ちていくその美しい姿は、
文明と自然の共存の象徴だった。


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2007年12月15日

西方山水詩 〜 High-tech Nature Wonderland.

山より流れ降りる幾多の川が、
街の中心を通って遠い湖へと流れていく。

悠々とした大河の両岸には
古くからの美しい建造物と、
近代的で斬新な建物が同居する。

最先端の技術が自然と共生する街、チューリッヒ。
他の街にはない独特の雰囲気がいたるところから
感じられ、永世中立国であるこの国の本当の姿が、
垣間見えた気がした。



"百の湖と森の国" スイス編、スタートです。


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2007年12月03日

西方蹴鞠譚 〜 Black and Blue Fever.

世界には"聖地"と呼ばれる場所がある。
一般に宗教的に重要な場所を指すが、
特定の人々の尊敬を集める場所を
そのように呼ぶことも少なくない。

そうした聖地と呼ばれる場所には、
前者のケースのみならず、ある一種の
独特の雰囲気があると知ったのは、
その巨大で荘厳な、建築物という
枠を遥かに越えた"それ"の威容を目にした時だった。

畝る支柱と巨大な斜面に四方を囲まれ、
その中心には緑色のピッチと二つのゴール。

ジュゼッペ・メアッツァ、通称「サン・シーロ」。
その迫力に圧倒され、俺はしばし立ち尽くした。
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2007年12月01日

西方碧散行 〜 Brilliant Blue Border.

その場所に存在するあらゆるものは、
紺碧の空から降り注ぐ太陽の光と、
そしてそれを反射した水面からの光の
両方によって激しく晒される。

行き交う船と、その頭上に架かる橋を行く人々。
そしてその周りを海から突如迫り出した
建物が取り囲む。そこはそういう場所だった。

水の都の名に恥じぬ、世界で唯一の風景。
それは一種の畏敬の念さえ感じさせられた。


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2007年11月29日

西方遊々抄 〜 Somewhere the Sun Never Falls.

緑の芝生、赤茶色の教会、青い空。
眩い太陽がそれらを強烈に照らし、
突き刺さる陽光に俺は思わず手を翳す。

そして気付いた。この国が眩しいのは、
何も太陽の所為だけではないことに。

目の前では世界で一番陽気な国民達が、
太陽よりもずっと眩しく輝いていた。
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2007年11月06日

西方羅馬郷 〜 Ancient Memories in Twilight.

湿り気の少ない心地よい風が肌を優しく愛撫し、
夕焼けに照らされた遺跡の影が足下に忍び寄る。

深く息を吸い込む。

肺の奥まで、身体中に染み渡るように、
この空気が何かを変えることを願いながら。
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